野宮さんちの今日のごはん

ごはんを記録しています。たまにごはんじゃないことを書きます。

西に行った話

この記事は自分のことを好きなだけ話す Advent Calendar 2021 の18日目です。

大体1年前の話をします。旅行記事です。

 家出した。どこにも帰らないつもりで。

 

 仕事と職場が嫌すぎて全部だめになってしまい、夜中に家を飛び出した。

 これは初めてではない。ちょうど1週間前にも夜中に家を出て高速道路に乗り込んで、PAで一晩明かした。朝になって仕事に間に合うことに気づいたら、道を引き返していた。

 今回は引き返さないつもりで、高速に乗らずに走っていった。通話回線のある携帯は置いて行って、データ通信だけの携帯を持って出た。

 だいぶ走ったところで、適当なコンビニの駐車場で夜を明かした。早朝に目覚めて、今度は絶対に仕事に間に合わないと気づいて、最後の箍が外れたような気がした。

 奥まった田舎、広い田んぼなどを抜けて、大きい道路を走る。カーステレオで好きな音楽をかけながら、知らない方向へ向かうのは楽しかった気がする。その瞬間の自分は切羽詰まっていたから、そうやって気を紛らわしていただけかもしれない。

 

 やがて東京に辿り着いた。いつも朝シャワーを浴びているので、風呂に入りたくなった。今から死のうとしている人間が身だしなみを気にしているようで滑稽だと思った。コンビニに停まって調べた近場の銭湯は定休日だったので、東京に来たついでに大江戸温泉物語に向かった。

 東京の道路は狭く、運転が大変だった。首都高は合流と分岐が複雑に続いて何がなんだか分からなかった。カーナビがなかったら永遠にさまよっていそうだった。高速を降りた後も、待ち時間が長く歩行者の多い信号ばかりで疲れてしまう。名の知れた場所を通っても一瞬で通り過ぎてしまい、目まぐるしい。

 お台場近辺は平日の朝早い時間だからか車も少なく多少楽だった。レインボーブリッジからの眺めを見て、都会の暮らしに思いを馳せた。

 スーパー銭湯に入るのは初めてだった。親戚の連れ添いや学校の旅行で宿泊した旅館以外の公衆の風呂や銭湯に入ること自体初めてだったかもしれない。温泉以外のコンテンツが充実していてすごかった。あまりお腹が空いていなかったけど、軽食を食べた。平日な上コロナ禍で人が少なかったこともあって気楽に過ごせた。

 一方で、心の中はずっと穏やかではなかった。今まで平気のつもりでやってきたが、ついにやってしまった。これからどうしよう。そう思いながら、いつもの癖で課題を先延ばしにした。

 携帯にメールが入った。母からだ。最近の連絡はLINEで取っていて、LINEの入った携帯は家においてきた。とにかくどうにかして連絡したかったから、大昔SNSが発達する前に教えていたフリーメールのアドレスに藁にも縋る思いで送信したのだろう。でも、一度背を向けて走り出してしまったからには、帰って合わせる顔などないと思った。

 湯に浸かったり、休憩スペースで泥になったりした。生きる目標が何もなくなって改めて振り返ってみると、この一年ずっと仕事のことばかり考えていた。初めてのことだらけで、何をやってもうまくいかなくて上司に詰められていた。平日も休日も、夢の中でさえ、上司に叱られることばかり考えていた。こんなに怒られるのは自分が無能だからだと思った。無能なので、迷惑をかけているに違いない。だから、周りが許容してくれたとしても、傲慢かつ無能である自分自身がそれに甘えてはならないと、戒めなければならないと考えていた。そして、今後も迷惑をかけ続けるならば、生きる価値などなく早く命を投げ出さなければいけないと思った。ずっとそんなことを考えていた。

 生きたくないから飛び出したけど、死ぬのはこわいから、行けるところまで行こうと思った。行先は決まっていないけど、西へ向かうことにした。

 

 初めて東名高速道路に乗った。車線がいっぱいあってPAはどこもデカくてすごかった。疲労状態を測定する機能が付いたハイテクなトイレがあって、試しに使ってみると、緊張状態なので休憩をおすすめしますと画面に表示された。なんだか心の中を見透かされているようだった。

 適当なところで高速を降りて、国道1号を走った。1号ってなんか特別っぽいから。やがて曲がりくねった山道にたどり着いた。国道なのにこんなにグネグネすることあるんだ。

 夜も更けてきたので道の駅で車中泊した。24時間使える休憩スペースに自販機とWi-Fiがあったので快適だった。誰かのキャンピングカーもここで泊まるみたいだ。コンビニで買った歯ブラシを使って、温水の出るトイレの洗面台で歯を磨いた。全部投げ出しているつもりなのに、まだ世間体を気にしている。

 朝起きると、展望デッキから芦ノ湖が見えて綺麗だった。その当時はそれが芦ノ湖であることは知らなかったし、気にすることもなかった。

 寝汗が気になって、また風呂を探して銭湯に行った。それ以外やることが思いつかなかった。無意識のうちに、風呂の中でぼうっとしている時間が気に入っていたのかもしれない。

 そもそも、飛び出してからゲームとか動画鑑賞とかエンタメの類を全然やっていなかった。Twitterは見てたけど。ひたすら運転したり休憩したりしていたので、デパートとか観光地とか、そういう場所に行っていない。死ぬつもりで生きていると、全然興味が湧かなかった。

 風呂に入って気持ちが曖昧になったあとは、また高速道路に乗った。やはりどこのPA/SAもデカかった。体は洗っていたけど服は洗っていなかったので、コインランドリーに行った。

 服を洗っている間暇だったので、なんとなく小説家になろうの小説を読んでいた。いわゆるコテコテのなろう系だった。主人公が最強で、やれやれと言いつつひ弱な悪役をボコボコにしたり、いろんな女キャラと仲良くなったりしていた。主人公が正ヒロインとくっついたところで、ヒロインの魅力の描写が詳細になっていって、作者が描きたいモノがなんとなくわかるようになって、つまんなくなって読むのをやめた。

 兄からメールがあった。使ってないスマホを見た母が自分のGoogleアカウントの検索履歴を見ており、更新されていることで生存を確認したらしいとのことだった。兄は引き止めなかった。旅行に行っているのなら満喫してこいとある。警察に相談していて、高速道路等を使うと足がつくかもしれないと変な忠告もしてきた。ますます帰りたくなくなった。

 

 高速を降りて、知らない街中の道路をうろうろしたりして時間をつぶしていた。ショッピングセンターなどにも行ってみたが、知らない町で目的もなくうろついても、あまり楽しくなかった。当時大流行だった例の鬼退治の映画も見た。複数スクリーンを使って30分刻みで上映していてすごかった。普段なら家族に関係するエピソードを見たら泣いてしまうし、美麗なアニメーションや壮大なサウンドに感動するはずだった。でも、涙は出ないし気持ちはどこか上の空のようだった。

 夜になって、寒くなってきたので風呂に入ろうと思った。風呂に入ることしか面白くなかったのかもしれない。街中のスーパー銭湯はいろいろな種類の湯舟があって楽しかった。銭湯の閉店時間まで中でぐったりした。暇つぶしに漫画を読んだりTwitterを眺めたりした。

 普段なら、明日のことを考える時間だ。「仕事に行く」という決まった課題があって、そのために準備することなどを考える。憂鬱な時間がなくなった今、気楽になったような気がする。

 

 思えば(短い)人生はいつも何かに追われていた。学校、宿題、受験、卒論…それらは常に目の前にあった。周りの人に強いられて、したくもないことをし続けた。親の期待に応えるため、内申のため、真面目に振る舞おうと心がけてきたし、それが当たり前だと思っていた。

 それらが終わって就職したら、価値観の違いすぎる環境に放り出された。大学では自由に遊んでいたので、中学校か小学校に逆戻りしたかのような窮屈な生活に嫌気が差した。これが今後ずっと続いていくと考えると、今まで頑張って何をしてきたのだろうと感じた。仕事の時間が趣味の時間を圧迫し始めると、なんで生きているんだっけ…と考えることが多くなった。

 このまま逃げ続けたとして、自分はどうなるのだろう。昔道端で見かけたヒゲモジャのホームレスのおじさんみたいになるのだろうか。その前に凍えて死ぬのだろうか。何も分からなかったけど、決まって嫌なことが起きる職場に行き続ける人生よりはましだろうと思った。

 

 その晩はコンビニで車中泊しようと思って、軽く買い物をしてから寝る準備をした。10分くらい経ったところで警察がやってきて、署に連行された。パトロール中に不審な県外ナンバーが深夜に止まっているのを見て声をかけたようだ。親が警察に連絡していたので、全国単位で照会されてヒットしたらしい。親が迎えに来る。物凄く遠いのに。

 警察の人は至極親切だった。最初は携帯などの手荷物を預かっていたが、抵抗しないのを見て返してくれた。署内のベンチで待機していたが、寒いだろうからと毛布を持ってきてくれたり、休憩室に案内しようとしてくれたりしたが、意地を張って断った。

 警察の人が緊急出動するのを眺めていたり意識を失ったりしていたら、すっかり朝になって親が来た。父が自分の車を運転して帰った。

 

 

以上、旅行記事でした。

社会のシャの字も知らない小学n年生のままタッパだけでかくなったキモオタクのオタク抜き(偏差値3)の文章なので、読みにくいし馬鹿馬鹿しい話だったかと思います。でも当時は仕事がつらくて、本当に生きている理由を失っていました。

旅を通して、生きる気力のなくなった人間はどんな娯楽も楽しく感じないことがわかりました。今も別に生きる気力はないですが、死ぬ理由もないのでのうのうと暮らしています。適当に過ごしててもたいていなんとかなるんだと思って、ストレスをためないようにやっていこうと思います。インターネットだけやって生きれたらいいのにね。

 

アドベントカレンダーの他の人の記事を読みました。みな文才に溢れていて、立派な自我を持っていて、面白かったです。まだ1週間分の自我が控えているので、楽しみにしようと思います。

 

以上